「ストレイドプリンセス②」先行冒頭試し読み!

3月発売予定でした「ストレイドプリンセス②」ですが、製作上の都合により、6月発売となりました。

先行で②巻の冒頭部分が読めるようになっております。こちらをどうぞ。

 

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ストレイド・プリンセス2

序章

 

それは、今から三ヶ月前の出来事。

皇国――五千年の歴史を誇る、世界で最も古き王政国家。

その国が獲られたばかりの頃にまで遡る。

「誰だ」

真夜中の二時。

皇宮の最深部。最も警戒厳重な場所。

皇が心身を休める寝所にて、この部屋のあらたな主となった少女はベッドから身を起こすと、一言呟いた。

部屋には誰も居ない。

それなりの大きさで声を上げたなら、隣室で寝ずの番をしている衛兵なり従者なりが駆けつけてくるだろうが、今この部屋に居るのは彼女――新皇のみ。

「よく、お気づきで」

だが、新皇の背後から返事はあった。

月明かりのみが差し込む、灯りの消えた室内の影から、声が放たれた。

「よく言う」

新皇は、背後に居る何者かに、皮肉げな声で返す。

この歳になるまで存在を秘匿されてきた、忌み子とも言える彼女は、長く命の危険にさらされ続けてきた。

それ故に、己の身を守る術はそれなりに修めている。

大の大人数人くらいならば対処できる程度の武力は持っている。

しかし、それも今背後に居る者からすれば、よちよち歩きの幼子とさして変わらぬ次元だろうことは、新皇が一番良くわかっている。

夜攘――「皇国に棲む悪魔」、常理を超えた力を持つ二十六人の特異能力者達からすれば。

なにせ、彼女はその二十六人の夜攘の内四人を率いて、国盗りを果たしたのだから。

「あからさまに気配を放ち、ボクの目覚めを促したのだろう。小癪な物言いをするヤツだな」

背後の者は答えないが、沈黙が肯定を示していた。

「名前くらいは聞かせろよ」

新皇の問いかけに、わずかに時を置き、暗闇から声が返る。

「“パニッシャー”」

パニッシャー――執行者、咎人に断罪を執行する者の意である。

それが実の名でないことは容易に想像できた。

一種の標識名、個を殺し己の使命こそが全てと割り切った者が名乗るもの。

「夜攘か……そしてその名……アレか? ボクを殺しに来たのか? お前に皇の資格はないとか言って」

尋ねる新皇に、パニッシャーと名乗った者の声はなかなか返ってこなかった。

しばらくして、暗闇から浮き上がるように、真白きローブに身を包んだ人影が現れる。

「私には、皇位の是非に異論を挟む権利はありません」

現れた者の顔は、ローブに隠れ、見ることはできない。

老人なのか、子供なのか、どちらにも見えるし、どちらにも見えない。

「私が用のあるのは、資格なき力を有した者………アナタの身に危機が及べば現れるであろう者」

「………セカンドのことか?」

沈黙が肯定であるかのように、パニッシャーは答えない。

そして、自らの計画を実行に移すように、手をゆっくりと掲げる。

新皇を危機に晒すことによって、目的とする者を呼びだそうと。

「ここにはいない」

「……………」

新皇の言葉に、パニッシャーの動きは止まる。

「本当だ。嘘だと思うなら音を立てて騒ぎを起こしてみろ。来るのはオマエの目的とする者以外の人間だ」

新皇の声に、命乞いも、半端なブラフも混ざってはいなかった。

究極の暗殺者と呼ばれる能力者を相手に、中途半端に仕掛けても痛手を被るだけ。

ましてや、皇である以外はただの人間である新皇には、そんな危ない賭けを行う必要はない――パニッシャーはそう判断したのか、受け入れた上で、新たに問うた。

「何処へ?」

「日本だよ、ちょっとした野暮用を頼んだ。帰ってくるまでここで待つか?」

新皇は肩をすくめ、冗談を交えつつ答える。

「……………」

わずかに、沈黙する白いローブの男。

何を考えているのか、うかがい知ることは出来ない。

己の喉元に刃を押し当てられているような気分になりながら、そのわずか数十秒程度の沈黙を、まるで数時間にも感じながら、新皇はただ相手の返答を待った。

「すれ違いだったか………」

ポソリと、パニッシャーはつぶやくと、懐から一冊の書物を取り出す。

(なんだ………?)

疑問に思うまもなく、その書物から無数の紙片が舞い上がり、パニッシャーの体を包み込む。そして――

「消えた………」

次の瞬間、パニッシャーの姿は消えてなくなっていた。

「…………………」

しばし……一分か二分ほど、様子を見るようにその場で固まっていた新皇だったが、おそるおそるベッドから出て、室内を数歩歩む。

どうやら、もはや用済みと感じたか、深夜の闖入者は出て行ったらしい。

「やれやれ……ぞっとしないな」

慣れていたつもりだったが、久々に寝込みを襲われ、言いようのない嫌悪感が体を支配していた。

ドカドカドカドカ!!

そこに、激しい足音が近づいてくるのが聞こえた。

「陛下! ご無事で!! 表の番兵達が倒れておりまして、なにごとかとごはぁっ!?」

程なくして、ノックもせずに現れた侍従長の顔面にそこらへんにあった置物を投げつける。

「遅いわボケ」

辛辣に一言返すと、窓に見える月夜に目を遣り、新皇はポツリと呟く。

「また、めんどくさいことになったようだ………何事もなければいいが」

それは、異国の地に向かった彼女の最も信頼を置く男を案じたものか、もしくは、同じくその地に住む言葉も交わしたことのない妹へ向けたものか、それは新皇自身にもわからないことだった。

 

 

 

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